この記事では、大手不動産会社の社員で宅地建物取引士の私が、16年間で北海道から沖縄までの賃貸契約~解約まで50,000件以上を扱った経験から、
賃貸でタバコを吸っていたお部屋を解約する際に請求されるであろう原状回復の内容と、費用を抑えるために貸主側への折衝方法をお伝えします。
タバコによる原状回復の借主負担はどこまで?減価償却は?
あくまでも、契約毎に契約書が取り交わされているため契約書に基づいた解約精算となりますが、筆者の経験からリアルにあった事実を踏まえて説明します。
借主側へ請求の可能性がある費用
- クロス張替費用
- 消臭費用
- 洗浄(建具等)費用
クロス張替は国土交通省のガイドラインによると6年入居したら1円?
賃貸借契約の原状回復について、国土交通省でガイドラインが定められております。
ガイドラインhttps://www.mlit.go.jp/common/000991391.pdf ※引用:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン, 国土交通省
ガイドラインの中で、クロスについては6年で1円となるように減価償却の適用を推奨しています。
(物の価値は時間の経過とともに下がっていく…)
入居期間3年で借主の故意・過失によりクロスを損傷し張替をする場合、その最小単位(1面)を張り替えたとします。
全額を借主負担とすると、入居していた3年間で自然損耗や経年劣化の部分も借主で負担するのは、新品にしている、つまりグレードアップしていることになります。そのため入居期間3年:(法定耐用年数-入居年数)/法定耐用年数)なので(72カ月ー36カ月)÷72カ月=50%、つまり張替費用の50%の負担をすればよいとのことです。
しかし、ガイドラインの減価償却はあくまでも材料費についての減価償却となりますので、6年入居して、故意・過失の損傷をした場合、「クロスは1円しか請求がこない」訳ではないことに注意。材料費に別途施工費(人件費)の請求をされるパターンもあります。
つまり、喫煙や落書きのような借主の責任によるクロス張替においても、国土交通省のガイドラインは減価償却しましょうねと謳っています。
このガイドラインとクロスの減価償却について管理会社へ伝えたけど、契約書では「タバコについては全額借主負担だ」って言われて…
契約書では「タバコによるクロス張替については全額借主負担」と明記されている契約書はよくあるの。
大多数がガイドラインと相反する契約書を締結している
国土交通省のガイドラインは、自然損耗・経年劣化は貸主の負担とするよう制定されているが、それぞれが取り交わしている契約書が相反する内容となっているのが大多数なのが実態です。
例えば、特約や原状回復補修要項等で
- 退去時のハウスクリーニングは借主負担
- 退去時のエアコンクリーニングは借主負担
- 喫煙によるクロスの張替は全額借主負担
- 借主の責任が明らかな過失は減価償却を考慮しない ・・・
これらは、ガイドラインとは異なる内容となり契約書へ署名捺印をしていれば、契約内容に合意の上契約締結をしていることになります。
人生の中で、不動産賃貸借契約および解約をすることはきっと平均しても10回もないくらいですよね?
さらに、不動産の知識や経験がなければ、細かく契約内容をチェックすることもないと思います。
民法の契約自由の法則から、国土交通省のガイドラインと相反する特約を契約締結をすることも一定の条件を満たせば可能です。
一定の条件とは
- 暴利的理由でない等の、客観的・合理的理由がある
- 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識している
- 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしている
ガイドラインと相反する契約を締結してしまったあなた、諦めるのはまだ早い!次では折衝の方法について伝授します。
貸主側への折衝方法
喫煙による部屋全体のクロス張替費用の請求をされたとき、借主側から「ガイドラインから6年入居したから張替費用は1円ですよね?」とか申し入れた場合、90%を超える確率で貸主側からは「契約書の特約に喫煙によるクロス張替は全額借主と記載し合意しています。」とか言われます。
契約時に細かく内容を確認している方は少ないので「知らなかった」が大多数かと思います。
貸主側へは、「喫煙によるクロス張替が全額借主負担」の特約について理解していなかったこと
6年入居して全面全額張替はグレードアップにあたることを伝えてみましょう。
おそらく90%の確率で「ガイドラインはあくまでガイドラインで考え方なだけ。」とか言ってくると思います。 貸主、管理会社によっては「法的拘束力はない。」とか言われるケースもあるかもしれません。
しかし、裁判になった際はガイドラインに基づいて審判されますし、過去の判例からもガイドラインに基づいたものとなっているため法的拘束力は無いなどは言えないと考えます。
また、入居時に新品で引き渡されたのか、(入居時に張り替えていない場合は入居期間6年だったとするとさらにプラスαで経過年数として換算できる)、入居前にクロス張替していない場合はさらに交渉の余地はありますね!
契約書へ「借主の過失については全額借主負担」の記載があり合意してしまった手前、貸主側へ申し入れをしにくいと思ったあなた、よく契約書を確認してください。おそらく条文のどこかに「甲乙協議のうえ」との記載はありませんか?
賃料改定や、原状回復、その他変更事項等、貸主と借主が協議して決定しましょうね!と記載があるハズです。
私が16年間、賃貸のリアルな現場の感覚としては、
この申し入れをした場合、入居期間の減価償却率と同等まではいかなくとも、9割以上の確率で貸主は減額に応じます。
電子タバコはタバコじゃない?
昨今では、アイコスなどの電子タバコを吸う方も増えており、(筆者は20年前に禁煙しているため、タバコ事情は詳しくないが・・・)電子タバコは煙が出ないため、電子タバコを吸っていたことで原状回復は発生しないと主張する借主も多く見てきました。
確かに、紙たばこに比べると煙も臭いも少なくお部屋に害はなさそうですが・・・・
喫煙しない人が、電子タバコを吸っていたお部屋に入るとやはり臭いは分かります。
そのため、電子タバコでもクロスや消臭などの負担が発生するケースは散見されます。
しかし、交渉の余地は十分にあると思います。
賃貸物件でタバコを吸ってた部屋の補修費用の減額交渉のまとめ
国土交通省のガイドラインで定める、壁紙クロスの耐用年数は6年ですが、これはあくまでも材料費であり入居期間6年超であっても喫煙等による特別損耗は施工費の請求をされることがある。
国土交通省のガイドラインは指針であり、原状回復の補修費については契約書に基づいて行われる。しかし暴利的な内容や、借主特約の義務負担について意思表示していない場合はなどは無効となるケースもあります。
相当の期間入居したにも関わらず、クロスの全面張替の高額請求をされたときは、貸主と協議しましょう。
ガイドラインに基づき、経過年数に応じた減価償却:計算式{(法定耐用年数-入居年数)/法定耐用年数)}例えば入居期間4年6カ月とすると、(法定耐用年数72カ月ー入居年数54カ月)/法定耐用年数72カ月=25%
つまり、クロス張替費用の25%が借主負担となります。
状況によっては、感情的になることもあるでしょう。相手のあることなのですべてスムーズにいかないこともあるかと思いますが、折衝は愛が深いほうが勝ちます(急になんだw)
筆者の経験からは、ノウハウと愛を持って折衝することをおススメします。
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